【Q】結婚して40年、夫の両親と同居していましたが、5年前に85歳で義夫が他界して、今は88歳の義母と3人で暮らしています。義父は、80歳を過ぎたころから認知症の症状が出て、高齢の義母には義父の介護は無理なので、私が義父の介護をしていました。フルタイムではありませんが、私も仕事をしていたので、夫は「母のこともあるし父を施設に入れれば、みんな楽になるんじゃない?」と義父を施設に入所させることを提案してくれました。結局入所させる前に義夫が他界して義母が残ったんです。義父の時は義母も元気ではいたので、義母の力も借りながら自宅で義父の介護ができたんですけれど、今は、義母にも認知症の症状が出始めていて、義母1人とはいえ私だけではかなりきつくなっているんです。義父の時に言ってくれたように「施設に入れよう」と夫が言ってくれれば、義母も反対しないと思うんですけどが、義母のことになると、夫は「自宅で看取る」の一点張りで聞く耳を持ちません。介護をしているのは私なのに…。先日「自宅で看取りたいなら、あなたも仕事を辞めて介護を手伝ってよ」と言ったら大げんかになり、それから口もきいていません。
【A】義父の時は夫が自分の方から「父を施設に入れれば、みんな楽になるんじゃない?」と提案してくれたのに義母のことになると「自宅で看取る」の一点張り。「実際に介護しているのは私なのに…」ということで困ってのご相談です。義母を「自宅で看取りたいなら、あなたも仕事を辞めて介護を手伝ってよ」と言ったもののそこで大げんか。今も口をきいていない…。
義母の介護は同居している息子の妻、つまりあなた、昔流に言えば嫁がしなければならないのかというと、法的に義務はありません。民法877条1項で「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と定められており、介護の義務を負うのは血族関係にある者ということになるので、姻族であるあなたに義務はありません。とは言え、あなたにとって法律が重要なわけではないので、大変悩んでいらっしゃいます。
あなたの悩みのおおもとは、介護、看護(育児もですが)などは当然、女性の仕事という社会に根強く残る男女不平等の家父長制意識、夫が「妻(嫁)」であるあなたに実母の介護を丸投げしてきていることです。義父の時は早々に夫が父親の施設入所を提案しているのに、母親は「自宅で」と言っている夫の態度にあなたは納得できないのですよね。
これは精神分析医であるフロイト(1856~1939)が提唱した「エディプスコンプレックス」に原因があると思われます。4~5歳の子どもが異性親を好きになる傾向を、ギリシャ神話のエディプス王子がそうとは知らずに父親と戦って父親を殺し、母親を妃にした物語から名付けたもので、フロイトはその傾向は大人になるに従って消失していくとしたのですが、大人になっても続くことを、近年では「マザコン」と呼んでいます。
あなたの夫は母親に愛情を抱いていた幼少期の感情が潜在的に続いていて、ライバルとしての存在である父親の施設への入所は、ライバルを遠ざける意味で決断が早かったのでしょう。しかし、母親に対しては「施設に入れたらかわいそう」とか「自分が帰宅した時に母がいないのは寂しい」とかいった思いが強くあり、「母は自宅で」となったと思われます。そして「自宅で」あって決して「自分で」ではないというところが「妻(嫁)のおまえが看るのが当たり前」という家父長制さながらの意識ですね。
この問題は、センシティブな問題を含んでいるので、喧嘩をしながらも時間をかけて話し合い、お互い理解し合うしかありませんが、女性が自分の生き方を見直しつつある昨今では、結果的にお互い歩み寄れず、離婚になるケースもす少なくないので、そういった覚悟も必要です。
第275回