男と女のQ&A【子親編】「長男て、そんなに偉いの?!」

【Q】
結婚して15年です。夫は7歳年上の52歳、3人兄弟の末っ子で、62歳と55歳の兄がいます。実家は、戦後すぐに今のところに引っ越したとのことで、地域ではある程度の力を持っています。8月にはお祭りがあったり、お盆だったりで、兄弟が毎年集まるんですが、外に出ると近所の人たちから声をかけられるのは1番上の兄。当然と言えば当然ですけど、兄の家は遠方で、ほとんど実家に顔を出すこともなく、両親に何かあった時には、すぐ近くに住んでいる私たちが面倒を見ています。1番上の兄は、両親と一緒に住むつもりはないと言っているし、2番目の兄も「俺も」みたいな雰囲気で、今のままだと私たち夫婦が両親の面倒を見させられそうなんです。なのに、実家に3人が集まると仕切っているのは1番上の兄。しかも、両親が亡くなったら墓を守るのは長男でなければダメみたいな…。結局、面倒を見させられるだけ見させられて、兄がすべてを持って行くってことになりそうです。義父はもちろん、地域の人たちも、それが当たり前と思っているみたいなんです。なんか、変な理屈で納得がいきません。
 
【A】
かつては親の介護を長男の嫁が担うことが多かったのですが、今は誰もが親の介護をする可能性が高い時代になりました。そのため兄弟姉妹の間で介護にまつわるトラブルが増えています。
 
介護まではいかなくてもあなたのように、長男は遠方に住んでいて「何かあるとすぐ近くに住んでいる私たちが面倒を見る」ことになります。一番上の兄、長男は遠方の上、「両親と一緒に住むつもりはないと言っている」とのこと。二番目の兄、次男も同様、となると三男夫婦が「面倒を見させられそう」と不平不満になっています。
その不平不満の元はといえば、「面倒だけは私たちが見させられて、日常的に長男に仕切られ、ご近所だけでなく義父までがこの家の墓守は長男=遺産は全部長男が相続!?」という事ですよね。
 
確かに旧民法970条には、「長子相続」のきまりがあって、前近代社会では家の財産は個人的な私有財産ではなく「家産」とされ、その直系家族の維持=家の存続とされていました。家制度は前近代社会の基礎になっていたので、政府も「戸主」となった長男には財産の全相続権は勿論、結婚や家族の身分関係の変動についても同意を必要とする権限を与えていました。この1898年(明治31年)に制定された民法は第二次大戦後日本国憲法の発布と同時に(24条に反するとして)、1947年(昭和22年)5月3日を以って廃止されました。
 
ただ、「家族の扶養義務」(民法877条)や「夫婦同姓」の戸籍制度の規定などは、古い家制度の名残としてそのままです。現民法上では法律上の家制度は廃止されたものの、「名残り」の規定はまだ法的には残っているし、地域や社会全体としては長子=長男がどんなに遠くに住んでいても、たまにしか顔を出さないとしても、「実家の冠婚葬祭を仕切るのは長男」と決めて、生まれた時から特別扱いすることが当たり前、という文化が残っています。あなたの不平不満、そして財産相続の不安はよくわかります。こういう歴史と風習の中で起きている社会現象だということを踏まえたとしても、介護、親の面倒を見るという長男夫婦の絶対逃れられない役割だった負の部分だけは「兄弟みんなで」と言われて、遺産は長子相続というのではたまったものではありません。お祭りなどには三兄弟そろうようですし、あなたが一番身近で面倒を見ているのは皆知っているのですから、普段から、ご両親の気持ち、意思をそれとなく伺ったり、経済的状況も三兄弟で本音で話し合えるといいですね。
第170回

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