男と女のQ&A【子親編】「“昭和”は黙ってろっ!」

【Q】
結婚して5年です。2年前、子どもが生まれたのを機に夫の両親と同居しました。産休明けから職場に復帰して、保育園の送りは夫か私、迎えは夫の両親にお願いしています。その点は義父と義母に感謝しています。でもうっとうしいこともたくさんあるんです。例えば子育てのやり方。義母は3人の子どもを育てているので、学ぶこともたくさんありますが、義母が子育てをしていたのは40年くらい前。今とはまるで違う世界ですよね。紙オムツなんて出たばっかりで布オムツを使っていたとか、果汁や離乳食をやるときはガーゼや食器を煮沸して果物や野菜をすりおろしたり潰したりして食べさせたとか、子育てを担うのは母親とか…。私は、夫も一緒に子育てをしてくれるし、楽な子育てをさせてもらってるなあとは思います。義母も「いい時代になったねえ」とは言うんですけど、私の子育ては「手抜き」と思っているのがわかります。それに今は、インターネットで調べれば、義母の話よりはるかに専門的な話もわかるから、義母の話を聞く必要もないんです。一応「ありがとうございます」って聞きますけど、「××すればいいのよ」とか言われると思わず「“昭和”は黙ってろっ!」って言いそうになります。
 
【A】
町の小児科医、松田道雄さんの著書「育児の百科」。1967年に診察に当たった経験を元に総合的な育児の手引き書として出版されたもので、累計販売部数は183万部以上。50年も前に書かれた育児の本が、なぜこれほど支持され続けているのでしょう。時代が変化する中で“母親の孤立”に寄り添おうとした著者の姿が見えてきます。(NHK放送文化研究所より)
子どもの年齢ごとに食事や遊び、病気への対応などについて細かく記されています。最初は百科事典のような大型本でしたが、何度も改訂され、現在は文庫本になっています。NHK放送文化研究所へ寄せられた感想はたくさんありますが、その中には「古い部分もあるけれど何より親の不安な気持ちを救ってくれる言葉がたくさんあった」「育児中に泣きながら読みました。働く母へのエールもたくさん。『預けて働くことに罪悪感を感じなくて良い』とか『瓶詰めの離乳食を与えながら笑っているお母さんのほうが良い』とか、昭和とは思えないあたたかさ」などという感想があります。
私が初めての子育て時この本に救われたのは、赤ちゃんの「消化不良」という項です。赤ちゃんの便を過剰に心配していた私は、松田先生の「赤ちゃんをそだてているので、便を育てているのではないことを忘れてはならない」という言葉にハッとしたことを今でも思い出します。
 
松田先生は明治41年生まれ。京都で町の小児科医をした後、60歳を前に執筆に専念し、「子どもの病気の診断や治療は簡単だが、育児はたいへんな仕事だということをあらためて感じた。育児の重労働はすべて女にしょわされている。子どもをもった女の負担を少しでもへらしたい気持ちがつのった」と「町医者の戦後」という著書の中で述べています。
1980年の改訂版の「父親になった人に」という項には、「君もいよいよお父さんだ。君に一言いっておきたい。君は年々、200人の母親が子殺しをすることを知っているか。以前の大家族の時代には古い世代がそばにいてくれた。いまは若い母親がひとりでせおわねばならない。子殺しをした母親のおおくが、育児に協力しない夫をもっていた」と親になった男性に呼びかけています。そして、この「育児の百科」は、平成10年に松田先生が亡くなられてからも、多くの人たちに読み続けられています。
 
幸い、あなたは夫の協力もあり、ご両親に助けられてもいますが、かなり「うっとうしい」義母に、「昭和は黙ってろ!」と言いそうにもなっています。「インターネットで調べれば」とまるで「魔法の杖」でも振るように「専門的な話もわかる」と言っていますが、本当にそうでしょうか?インターネットの向こう側の人は、あなたやあなたのお子さんを実際に見ているわけではありません。あなたの気持ちを真に受け止めてくれるわけでもありません。衝突はあるかもしれませんが、夫やご両親とも様々な話をすることこそ、ワンオペ育児からの解放であり、あなたも楽になることと思いますよ。
インターネットの情報だけに頼るのも、それこそ「手抜き」の育児になることを心してください。
第240回

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