男と女のQ&A【親子編】「お母さんは何で仕事をしていないの?」

【Q】
高校2年生の息子と中学2年生の娘がいます。娘に「お母さんは何で仕事をしていないの?」と聞かれました。パートの仕事はしているのですが、娘は「医者になりたい」という夢を持っているので、私のような「パート」を仕事とは考えていないんだと思います。確かに「職業は?」と聞かれれば「無職」と答えると思うので、娘の考えはその通りだと思います。私は娘にちゃんと答えてあげることができませんでした。息子に聞かれたら、「あなたたちを育てるのに仕事をしていない方がいいと思ったから」とか「パートも立派な職業でしょ」とか答えたと思うんです。娘の「何で?」に答えられなかったことで、私自身「女」という立場で充実した人生を送ってこられなかったというわだかまりのようなものがあるのかなあと考えるようになりました。娘には「私のようにはならないでほしい」「自分自身の人生をしっかりつかんでほしい」と思うのですが、娘にとって私はすごく悪い見本にしか思えず、これから私がどう生きていったら娘が娘らしく生きられるのか、とても悩んでいます。
 
【A】
息子だったらすぐ答えられたのに、娘さんの「お母さんは何で仕事をしていないの?」という質問に答えられなかった自分に「わだかまりのようなものがあるのかなあ」と考えていらっしゃるとのこと、よくご自分を分析されていて立派だと思います。私のところへ相談に来ている方はあなたと同じような悩みを「後ろめたさ」と言っています。
ちょうど、あなたくらいの年齢の方は、憲法26条1項で「全ての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じてひとしく教育を受ける権利を有する」と学校教育では教えられてきました。人種や出自や経済力などと共に、人が生まれ持った「性別」によって教育や進路を左右されてしまうことをなくそうとするジェンダー・フリー教育は、民主主義国家としての日本に住む私達が最優先で守るべき理念としてきました。
 
しかしながら社会はまだ「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という枠組みに縛られています。マスコミの報道も、例えばTV番組のタイトルも相変わらず「おかあさんといっしょ」だったり、女性アナウンサーは番組のMCではなく、アシスタントとして男性の下だったり、学校教育の現場で、出席簿や整列の順が男子が先で女子が後だったり、教師の人数は女性が65%なのに校長の人数は男性が82%だったり…。高校になると女性教師が26%、男性校長が95%です。教育現場では「隠れた男女差別カリキュラム」が行われているということです。徐々に変わりつつありますが、応援団長は男子、女子はチアリーダー、男子が生徒会長で女子は副会長。挙げればきりがありません。
 
医学部の入学試験でも女性差別があり、男子より良い点を取っていても「女子は長続きしないから」という理由で、いくつもの医学部が女子を不合格にしていたことが、数年前明るみに出ました。ご自分自身が「女」という立場で充実した人生を送ってこられなかった「わだかまり」に気づいた今、娘にとって「悪い見本にしか思えないという心の中の思いを娘さんに話して上げてはいかがでしょうか?
今やっと日本では医学部の男性優位の入学試験が問題となり、娘さんに追い風が吹きはじめました。世界を見るとパキスタンのマララさんのように女子教育を否定するタリバンに銃撃された少女もいれば、今、その行いに対するバッシングの対象になってはいますが、フィンランドのサンナ・マリンのように34才でレジ係だった彼女を首相にした国もあります。どうか娘さんにはご自分の「わだかまり」と「後ろめたさ」を語って上げてください。そしてもし「あなた達が育った今、私はこんな仕事をしたい」とあなたの夢を語れたら素敵ですね。
第239回

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