男って何?女って何?【夫婦編】「退職後の夫は毎日家でゴロゴロ」

 
Q. 
結婚して40年です。夫は定年後、再雇用で65歳まで働きましたが、3年前退職しました。蓄えと年金で生活には困りませんが、夫には何も楽しみがなく、家でゴロゴロの生活です。退職後1年くらいは、後輩にゴルフに誘われたり、会社のイベントに参加したりしていましたが、2年目に入るとそれもなくなりました。必死で仕事をしてきた分、地域との繋がりもなく、ゴルフしか趣味がない夫は、自分で楽しむことができません。カルチャーセンターに通ってはみたものの、女性ばかりで馴染めず、長続きしませんでした。結局、ゴロゴロしながらテレビを見る毎日。たまに私と旅行に行きますが私は気を遣うばかりで楽しくありません。今後、何年もこんな生活が続くかと思うとぞっとします。
 
A. 
発達心理学の教科書には「発達とは、受胎から死に至るまでの成長、成熟、経験、学習など一生にわたる心身の変化すべてを含む」と書いてあります。最近の発達の研究は誕生前から死までの一生涯を対象としていて、成人期以降の発達についても注目が集まっています。
 
その背景として超高齢社会がやってきたことがあげられます。今までの発達の考え方は「新しい能力の開発」とか「発展」とかと捉えられていて、老年期は「発達の停止、衰退」であるため研究の対象から外されがちでした。確かに、生理、身体的な老化は事実ですが、この時期に人間の「こころ」は新しい変化を迎え、成長、発達していく、人は「老年期にも発達する」、「老年期にこそ精神的機能は円熟の時を迎える」と言っても過言ではないのです。今日のような長寿社会では、充実した老年期を迎えるために、老年期の人々が持つ潜在能力にもっと目を向けることが大切です。身体機能が青年期にピークに達するのに対し、精神的機能は60代でも高く維持され、言語的能力や長年の経験に基づく領域では、老年期に入ってから高い生産性を保っていることが研究されています。(山下富美代編 発達心理学)
 
90歳で亡くなるまで南アフリカの病院で活動を続けたシュバイツアー博士、100歳を超して聴診器を提げていた日野原重明先生(1911〜2017)、103歳になっても一人暮らしをしながら絵を描き続けていた篠田桃紅さん(1913〜)など、90歳以上の方でも現役で活躍している人がたくさんいます。定年を迎える60歳前後で寝たきりの生活を余儀なくされる方もいますが、それでも人を年齢で輪切りにするのではなく、それぞれの人の個人差を大切にして関わることで、人は年齢を超えた驚異的、多様的活動ができるものです。
 
あなたの夫は65歳までゴルフ以外の趣味も、地域との繋がりもなく必死で家族のために働いてくれました。そのおかげで蓄えと年金で生活には困らないとのこと。あなたは「旅行に行っても私は気を遣うばかり」「家でゴロゴロの生活」にも批判的で、今の生活を「ぞっとする」と言っていますが、40年間、彼が趣味や地域との関わりもなく働いてくれたことに多大の感謝をし、ゆっくり休んでもらいながら、彼の経験と精神性を生かした「出番」を一緒に見つける妻の役を果たしてはいかがですか。たぶん、夫のおかげであなたは豊かな趣味と人間関係、そして「出番」をお持ちでしょうから。
case67

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