男と女のQ&A【子親編】「義母の手を引く夫が気持ち悪い」

 
 【Q】
先日、お花見に出かけました。一人暮らしをしている78歳の義母も誘いました。公園のソメイヨシノや大木のエドヒガンザクラを見て回ったんです。ソメイヨシノは花の下を歩き、ちょっと小高いところにあるエドヒガンザクラは、ちょっと登りでしんどかったんですけど、花の下まで行きました。杖をついて一人で桜の下まで行く人、息子や娘に手を引かれている人、けっこう年配の人が多かったんです。
 
義母は一人でどんどん旅行にも出かけるような人ですから、足腰もしっかりしているし、どう考えても手を引かないと桜の下まで行けないような人ではないんです。なのに、夫が「お母さん、大丈夫?」と言って、手を引き出したんです。その光景を見て、私は「気持ち悪い」と思ってしまいました。私には手を引いてほしいようなそぶりを見せたことのない義母なので、夫に手を引かれて嬉しそうにしている義母に嫌悪感を持ったんです。私って冷たい嫁なんでしょうか?本当に大変なら私が手を引いてあげてもよかったんですけど、私じゃダメなんですよね、きっと。
 
 
【A】
「エディプス・コンプレックス」という心理学用語があります。これは、フロイト(1856-1939)という精神分析医が提唱した精神分析理論の中にある言葉です。ここで言う「コンプレックス」とは、最近よく使われる「劣等感」といういう意味ではなく、「心の偏り、心の癖」という意味です。
 
4~5歳の子どもが異性親を好きになる傾向を「エディプス感情」と言います。これは、ギリシャ神話に登場する「エディプス」という若い王子が、占い師の宣託よって、生まれてすぐ捨てられて、隣国の王夫妻の子どもとして育てられるのですが、長じて実父とは知らず戦って実父を殺し、妻であった実母と、これも実母とは知らず結婚し、その事実を知った実母は自害、エディプスも自らの目を刺し盲目となり、放浪の旅に出るという悲劇から取られたものです。
 
エディプス感情は、幼児期を過ぎると自然と消失して行きますが、中には夫との関係がうまくいかない妻が息子を夫や恋人代わりにして育ててしまったり、時には息子の方が苦労をしている母親を父親から守ろうとしたりして、成長してからも母親から離れられなくなったりする場合もあります。これを「マザコン男」「マザコン夫」などと呼んで、異性との恋愛がうまくいかなかったり、結婚しても妻より母と親密で、夫婦関係がこじれる原因になったりします。
 
あなたが、義母があなたの夫である息子に手を引かれて嬉しそうにしている様子に嫌悪感を持ったり、一人でどんどん旅行にも出かけられるような母親に「お母さん、大丈夫?」と言って手を引く夫に「気持ち悪い」と思った感情は、けっしてあなたが冷たいからではありません。人間の潜在意識の中には、幼少期には異性親を好きになる傾向があるとフロイトが言っている通りです。
とは言え、長じるにつれてそれは消失して、それぞれのパートナーと結ばれ、家庭を作っていくことで、人間の歴史は続いていくのです。にもかかわらず、あなたが目の前で見た、夫と義母との光景は、まるでエディプス・コンプレックスそのものだったのです。「気持ち悪い」と思ったのは、人間の進化や精神分析理論的に言えば、むしろ「健康的」だったと思います。あなたが「私じゃダメなんですよね」とおっしゃるのもその通りでしょう。
 
お義母様は一人暮らしとのこと。いずれ同居ということになるとしたら、その前に夫とよく話し合う必要があるかもしれませんね。
第255回

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