【Q】
40歳、専業主婦です。小学5年生の息子と3年生の娘がいます。去年くらいまでは2人ともとても素直で、私が何か注意すればよく言うことを聞いてくれたんですが、息子は、今年に入ったころから、まるで別人のように言うことを聞かなくなりました。汚れた服は脱ぎっぱなし、お菓子を食べた袋も放りっぱなし・・・。それを私が注意すると「うるさいなあ」と言って、片づけようともしません。娘の方は、女同士ですから気持ちもわかるし、叱った時は腕でも組んで買い物にでも行けば機嫌も直って、仲のいい親子になれるんですが、息子の方は口をきこうともしないし、どう扱っていいのかわかりません。夫は「放っておけ」と言いますが、このままではしつけもできず、だらしがない大人になってしまうのではないかと心配です。
【A】
発達心理学では、小学5年生くらいの子どもたちを思春期前期といい、特に10歳前後を「ギャングエイジ」と呼んだりもします。子どもたちが普通に発達していると、この時期にご相談のような子どもから大人への変化が現れるのです。もちろん、子どもたちの内面で徐々に準備されていた成長が身体のいろいろな場面、特に性に関する身体の部分に現れてくるわけです。男の子では、それまで高音の細い声で話していたのが、「オレ風邪を引いたかな?声がかれるなあ」などと言っているうちに、突然低い声でしゃべり始めたり、「オレ、ひげ剃る」と言い出したりします。この頃、性器も大人の男性のようになり、精通を迎えることになります。女の子では、胸が膨らみ、初潮が始まります。
子どもたちにとってこの外側の変化は、突然やってきた知らない世界ですから、戸惑い、羞恥や大人の世界へのあこがれなどがゴチャゴチャになり、心がこの変化について行けません。にもかかわらず、第二次性徴と言われる性ホルモンの分泌による成長が、子どもたちの内面で起こるわけです。外側と内側で起こる変化について行けず、わけもなくイライラしたり、怒りっぽくなったり、かと思うと高揚してはしゃいだりするのです。この頃、女の子も男の子も、それまで平気で「お母さん」と呼んでいたのを「おふくろ」と呼んでみたり、「ばばあ」と言って、母親をびっくりさせたりします。
母親はこの変化に戸惑うわけですが、母親よりも本人の方がもっと戸惑っているので、お母さんは、どうか慌てず騒がず、この変化を「おっ、我が子が男の子から男性へと成長しているところだな」と楽しみにながら見守ってください。
親と一緒にいる時よりも、友達といる時間が大切になってきて、帰宅時間を守らなかったり、冒険に憧れるのもこの時期です。要するに、人が一人の「人間」として自立するための練習期間なのです。「自我の芽生え」の時期です。親に反抗し、友達と徒党を組んで小さな冒険を繰り返しながら成長していく少年時代なのです。
ところが昨今、この時期、グループで冒険をして自分を試し、失敗しながら人間として力をつけて成長していく時間も場所もなくなりました。塾やゲームセンターが彼らの居場所になっています。ですから、せいぜい家の中で母親に反抗させてやり、自立の芽を伸ばしてください。お母さんも、面倒でも精一杯息子の反抗に応戦してあげてくださいね。ただし、この時期が過ぎるれば、自分で考え、しっかり生きていくようになりますから、心配しすぎて、強行に叱ったり、叩いたりは決してなさいませんように!
最後に2つ申し上げておきます。
1つは、今は母親であるあなたを反抗の対象にしていますが、もう少し経って、中学生・高校生になると父親がターゲットになります。乗り越える壁が高いほど子どもたちは成長しますが、高すぎるとつぶれるのでご注意を。
もう1つ。下の娘さんも間もなくこの兆候が現れることでしょう。これからは、人が「人間」として成長するための大切な発達段階なのです。この時期をうまく乗り越えられないと、将来引きこもりになったり、ニートになったりしがちですから、親子で葛藤しながら上手に乗り越えてください。
第14回