【子親編】「夫のことを知っているのは私!」


【Q】
34歳、主婦です。夫は大学の先輩で、卒業してから付き合いはじめ、5年間付き合って結婚しました。現在結婚して6年です。結婚後1年半は私も勤めていましたが、出産を機に勤めを辞め、専業主婦になりました。夫は長男で、将来夫の両親の面倒を見るという含みもあり、夫の実家からそう遠くない距離に住んでいます。
先日、義母が私の家に来た時のことです。私が作った肉じゃがを食べた義母に「息子はもっと濃い味が好きなのよ」と言われました。夫とは長く付き合っていましたので、今の夫の好みくらい知っています。そういえば、夫の実家にお邪魔した時にも「これが息子の好きな味よ。覚えておいてね」と言われたことがありました。夫には妹がいるんですが、義母が義妹のことをそんなに気にしているようには思えません。長男ってそんなにかわいいんでしょうか?夫も夫です。義母がそう言っているのを聞いているくせに、私の方が美味しいとは言わず、にやにやしているだけです。

【A】
あなたは夫と、恋人として付き合って5年、結婚して6年、計「11年」という時間を共有しています。ただ、単純に夫との物理的な時間の共有となるとちょうど義母の半分ですよね。でも、そういう単なる物理的な時間の共有の多さ少なさを相手のことが理解できるかできないの尺度にするのはナンセンスなことです。夫と出会ったあの時の「ビビッ」という感覚を味わったあなたには、もうわかり過ぎるほどわかっていると思います。
出会いのその一瞬に二人に電流が通ったようなあの感じです。そして、相手のすべてを理解したと思うのです。ただ、この現象は20代半ば前後の性ホルモンの分泌とも関わっていて、種の保存のためにお互いが引き合うような時期によく起こります。そのため、種の保存としての妊娠、出産を終えると、夫婦の間にも「こんなはずじゃなかった感」が出てきます。あなたの場合も「私は夫のことをよく知っていて、このくらいのうす味が好み!」と自信を持っていますが、「夫は義母の言葉を否定しない」ということを見ると、心の中で「もう少し濃い味の肉じゃがが食べたいなあ。でも妻にそんなことを言ったら“身体に悪いでしょ!”とか“このくらいが私の実家の味よ!”とか言い返されて面倒だから黙って食べていよう」と思って食べていた、とも取れませんか?
私たち人間は一人一人違います。ところが他の動物、特に類人猿に限って比較しても、彼らはあまり個体差がありません。200万年から400万年ほど直立二足歩行をし、立っているらしい私たちは、頭や内臓を支えているため骨盤が腰のところでしっかり締まり、この骨盤をがぎりぎり通過するだけの大きさの胎児しか産めません。他の類人猿の場合、今も四足歩行なので、子宮の中でほぼ親と相似形まで成長させて出産できます。結果として人間は「小さく産んで大きく育てる」ことになります。この小さく産まれる状態を「生理的未熟児」と呼んだりします。生まれた時点では、類人猿の方が人間より勝っていて、誕生後すぐ歩いたり、自ら母親の胸にすがってお乳を飲んだりします。ところが人間の赤ちゃんは、もう1年くらいお腹に入っていれば、類人猿と同様な行動ができるのでしょうが、それでは狭い骨盤を通って生まれてくることができません。
未熟なまま生まれた私たちの赤ん坊は、他の類人猿が親と同じ形で生まれ、チンパンジーはチンパンジーとして、ボノボはボノボとして生まれ、さほど個体差がなく一生を終えるのに対し、育て方や環境によって個体差の大きい大人へと育つわけです。
ですから、10年や20年一緒にいたからといって、相手のすべてがわかるわけではありません。この際お義母さんに夫の好みの味を教えてもらうのもこれからの夫婦円満のこつかもしれませんね。そうは言っても、そばでニヤニヤしている夫にもかなり腹が立ちますよね。徹底抗戦するならば、「あの時なぜ私の味の方が美味しいと言ってくれなかったの!?」 と打って出てもいいでしょう。そしてもし、あなたも夫に誤解されていたり、理解されていない不満があるのなら、この際“実は私…”と話し合ってみてはいかがでしょう。このことがきっかけで夫婦が壊れるもよし、このまま放っておくにはもったいないチャンスですね。
また、長男を母親がかわいがる心理、幼児期に異性親を好きになる現象を精神分析医フロイトは「エディプスコンプレックス」と呼んでいます。この現象が大人になっても続いているのが、俗に言う「マザコン」です。この義母は、きっと夫が自分の思うようにならないので、男の子を自分の設計図通り育てて自分の恋人、夫役に仕立てることで、自身のバランスをとっているのでしょう。彼女からはあなたはライバルと潜在的に見られているのです。こういった人間の心理を知って、あなたがひとつ大人になってはいかがでしょうか。

第15回

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