【親子編】「ガールフレンドに暴力を振るう息子」

【Q】
高校2年生の息子のことです。ガールフレンドが、息子の部活が終わるのを待って一緒に帰るはずだったのに、女友達と一緒に帰ってしまったといって息子が彼女を殴ってしまいました。その程度がひどかったので、息子は謹慎処分になりました。彼女が言うことを聞かないことに腹を立て殴ってしまったこともあるそうです。最近では私が注意をすると私にも暴力を振るうようになりました。息子は「カッとすると人にひどいことをしてしまう」と言い、自ら精神科の受診を望んだので受診させました。そこでは「境界性人格障害の疑い」と言われました。何か病名が付くようなことなのかととてもショックでした。夫は息子が生まれたころから「仕事が忙しい」と言っては、週末も帰らないことが多く、愛人がいるのではと疑ったこともあるくらいの関係でした。息子が小中学生のころは、息子に愚痴を聞いてもらったり、一緒に買い物やスポーツ観戦に行ったりしました。そのころの息子は、私に気を遣うとても優しい子だったんです。

【A】
母親と息子の関係はフロイトが「エディプスコンプレックス」と名付けた母子密着の状況が表すように、男の子は母親に、女の子は父親に愛着行動を示すと言われています。あなたの場合、息子さんはあなたを安全基地として求めたのにもかかわらず、あなたが逆に息子さんを夫代わりにして愚痴を聞いてもらったり、どこかに一緒に出かけたりしてきました。
本来ならば、お母さんが子どもの不安を解消し、安全を与える存在になることで、子どもは不安になった時にはいつでも安全を確認しつつ、徐々に母親から離れても、多少の不安や危機感を乗り越え、新たな行動を起こしては大人になっていくものなのです。思春期には、彼なりに母親以外の異性との出会いを大切にし、その女性の人格を認め、たとえ彼女が自分の思う通りに行動しなくても、自分の中でなぜなのかと考えたり、悩んだり、彼女と話し合ったりしながら、解決していくように努力します。
ところがあなたは、本来夫が担うべき役割を息子さんに代替させる報酬として、息子さんの言うことをすべて聞き入れてきたのでしょう。そのため彼は、少しでも自分の思った通りに相手が行動しないと暴力を振るって思い通りにさせようとするのです。母親と父親が話し合いながら物事を解決していく場面も目にしたことがないため、すぐ暴力に訴えることにもなります。

「境界性人格障害」というのは、感情が極端に不安定で、強い不安感、激しい怒り、極端な理想化と否定などの特徴が見られる症状を指すもので、対人関係が安定せず、社会生活を送る上で、自分も周囲も苦しむことになります。

アメリカ精神医学会DSM-Ⅲの境界性人格障害の診断基準の中では、
(1)現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする通常の感覚を超えた努力
(2)不適切で激しい怒り、または怒りの制御困難

などが挙げられており、そのため些細なことで爆発的に怒り出し、その間は止めようがなくなりますが、しばらくすると涙を流して反省したりします。

その症状の発生原因ははっきりとは解明されていませんが、最近の考え方の一つとして、素質的な要素をベースとして幼児期の母子関係に関わりがあるのではないかとも言われています。母子密着の状態が3歳を過ぎても続くと、子どもが精神的自立をすることが困難になり、「よい子」にしていれば母親に可愛がられ、「悪い子」にしていれば切り捨てられると感じて、0か100かの評価をし、「よい自分」と「悪い自分」とか、「自分を可愛がる母親」「自分を拒否する母親」というような2極化の価値基準を作り上げます。思春期になって好きな異性にも「愛している彼女」と「殺したい彼女」というように、同じ対象を2極化して見るため、暴力にも走ることになります。

お母さんとしては、心理的に少し距離を置いた感じで感情的にならず、息子さんの考えや行動を見守り、話はしっかり聞いてください。その際、自分の価値観を押しつけたり、相手を否定したりせず、共感的に聞くように努力してください。怒りが爆発した時は「冷静になったらまた話すこと、あなたの気持ちを理解しようとしていること」を告げて、その場から避難してください。そして何にも増して大切なことは、夫とこの状況を共有し、夫婦で協力して息子さんの安全基地になってください。

第24回

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