男と女のQ&A【子親編】「嫁の介護を受け入れない母」

【Q】
父が他界して3年、82歳になる母は、少し身体が不自由になり、1人で何でも出来る状態ではなくなりました。5年ほど前から兄夫婦が同居していて、介護の必要になった父を最期まで自宅で看取ってくれました。義姉が本当によく面倒を看てくれて父は幸せだったと思います。
なので、母も安心して任せていたんです。ところが、拒否というほどではないんですが、母は義姉の介護を受け入れたくないらしいんです。何かあるとすぐ私に電話をかけてきて「嫁に身体を触られるのは嫌なんだよ」と言うんです。ヘルパーさんならいいみたいなんですけれど、ヘルパーさんのいない時間帯は私を呼ぶんです。車で10分ほどのところなので何とか対応はしていますが、母の気持ちの中には、未だに「息子を奪った嫁」みたいな意識があるみたいなんです。決して母と義姉と仲が悪いというわけではないんですけど…
 
【A】
アンペイドワークという概念は1995年の北京女性会議で採択された行動綱領で示され、家事や育児、介護などの無償労働を再評価するために生まれたものです。あなたのお母様は今まさに長男の妻のアンペイドワークに支えられて生きています。しかもこの義姉は亡くなったお父様も5年ほど手厚く介護して看取ってくれています。それにもかかわらず身体を触られるのような介護はさせたくないと言って実の娘のあなたをいちいち呼びつける。赤の他人のヘルパーさんならやってもらっているのに…。お母様の心の中には、ずっと「息子を奪った憎き女性」という感覚が消えないみたいだとおっしゃる。
 
今さらと思われるかもしれませんが、お母様にこの無償でありながら生活を支えるのに不可欠なアンペイドワークの貴重な兄嫁の価値を理解してもらうことが、高齢ではあっても同じ女性として大切です。「息子を奪った憎き嫁」というエディプスコンプレックスの意識があるのなら、まだ認知の能力は高いわけですから。
 
100年ほど前、精神科医フロイトは、ギリシャ神話の中の、父の国と闘って父を殺し、母親とは知らず残された王妃である母と結婚、母は自死、自らは目を突いて放浪の旅に出たエディプス王の物語になぞらえて、母に執着する息子や息子にこだわる母親の関係をエディプスコンプレックスと呼んでいます。
 
せっかくお義姉様は亡きお父様にもつくし、お母様にも嫌がらず良くしてくださっているのですから、人生最後の時を義姉に感謝して過ごしてほしいものです。幸い表面上2人は仲は悪くないとのことですから、まずあなたが母に呼ばれる度にたとえ10分のところでも駆けつけるのはやめてください。あなたの行動もアンペイドワークの最たるものですし、お母様には「私には私の生活があって無理」とはっきりおっしゃってください。
 
お義姉様と相談して、「お義姉様には感謝していること」「手伝うのはやぶさかではないけれど、母にお義姉様に心から感謝してもらいたいために母のところに駆けつけるのをやめること」を提案してください。そして、「私の代わりに兄さんにやらせること」も合わせて提案してください。おそらくお母様は「息子にやらせるなんてかわいそう」とおっしゃるでしょうから。
 
まだ考える力が残っていて、義姉を拒否する力があるうちに事を運んでくださいね。いずれ、誰に介護されているのか分からない日々が来てしまいますから。
第160回

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