【Q】
五輪組織委員会の森会長の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」っていう発言にはびっくりしました。案の定辞任になっちゃって。辞任表明の時には「女性を蔑視しているつもりはない」みたいなこと言ってましたけど、何が蔑視なのか分かってないんだなって思いました。彼ともその話で盛り上がって、その流れで結婚の話になったんですけど、その時彼から飛び出した言葉がなんと「俺も家事手伝うよ。育児だってやれると思う。必ず幸せにするから」。「はあ?」ってなりました。それって「私が家事の中心で彼が補助」みたいな言い方ですよね。だいたい、彼に幸せにしてもらおうなんて全然思ってないし…。家事もやらない「お~い、お茶」男よりはましかもしれないけど、何が女性蔑視か分かってない1人なんだなって。要するに家庭の中心は男、家事は女って考え方で男女平等じゃないんですよ。結婚も考えてはいるんですけど、ちょっと迷っちゃいます。
【A】
全世界の女性が共感したという小説「82年生まれ、キム・ジヨン」をお読みになりましたか?
現代女性が抱える重圧や絶望を社会問題を織り交ぜながら鮮明に描いています。2016年に韓国で刊行されるとすぐ女性達の共感を呼び130万部を突破し、日本、イギリス、フランス、スペイン、イタリアを含む16カ国で翻訳されています。日本でも発売2日目に重版が決定し映画化もしました。結婚出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。社会から切り離されていく孤立感、自分の存在意義を見出せない苦悩に読者や映画を見た観客は自分たちを重ね合わせたと言います。
私が一番印象に残ったのは夫がジヨンに「僕たち子どもを持とうよ」と言う箇所です。ジヨンは夫があまりにも軽々しく言うので「あなたはまるでデパートへノルウェー産のシャケを買いに行くように言うけれど…」と言い、夫は「僕だって手伝うよ、家事も育児も」と答える。彼女は「私たちが子どもを持つことであなたは何か失うものがある?」と尋ねます。そして「私はほとんど全てのものを失うのよ。今まで築いてきたキャリアも人間関係も。そしてこれからの未来も時間も。自分の健康さえ失うかもしれないのよ。あなたは何も失う物はないでしょ」と言うと夫は「僕だって失うさ。仕事の後、仲間と飲んでくる時間や人間関係。その代わりに赤ん坊を寝かしつけたりフロに入れたり、手伝うよ」みたいなことを云うんですよね。
これは私の記憶なので脚色があるかもしれませんが『手伝う』という言葉があなたと同じように気になって、読んだ後2年経った今も心の中にわだかまっています。あなたも彼の「手伝う」を「彼は家事・育児の補助」とちゃんと正しく受け止めていますよね。家事や育児の中心は女性。男は女を幸せにすると言うのに女は決して「私はあなたを幸せにしてあげる」とは言わないのに…。
森元会長の女性蔑視は底が深く「みなさんはわきまえていらっしゃる」という言葉からは自分にとって都合のいい女性かどうか選別できるという特権意識がうかがえます。あなたが迷っていらっしゃるというのは、とても素晴らしい感覚です。私の研究所へいらっしゃる方の中には「中学生の兄と一緒の部屋だった時、今考えれば性虐待をされていて母に泣いて訴えても『女の子でしょ、我慢しなさい、お母さんも我慢したんだから』」と言われた方もいます。
会合では笑いが起きたとのこと、「差別意識を支える組織や社会構造を変える必要があります。まず、あなたの気持ちを彼に伝え、話し合ってみてください。
第202回