男と女のQ&A【親子編】「コロナ禍で息子との距離が近くなって…」

 
【Q】
高校2年の息子と中学3年の娘がいます。コロナ禍で生活が一変しました。息子も娘もコロナ禍前は部活動に夢中で、朝早く出て、真っ暗になってから帰ってくるという生活でした。帰宅すると疲れ切っているのでお風呂に入って食事をすると勉強もせず寝てしまうという繰り返しだったので、私と子どもたちとの距離はけっこう遠かったんです。ところが昨年、緊急事態宣言で学校がしばらく休みになり、宣言は明けても部活動はほとんどできず、2人が家にいる時間が長くなりました。子どもたちが家にいるとつい私も子どもたちをかまってしまうというか、何かしてやらなくちゃっていう気持ちになってしまうというか…。学校は最近正常に戻りつつあるんですけれど、子どもたちと私の距離は縮まったままです。私の接し方が悪いのは分かっているんですけど、一緒にいる時間が長いとつい何かしちゃうというか…。特に息子との距離は近くなってしまって、一緒に買い物に行くこともしばしばです。高校生の息子と買い物をしている自分がよくないことは分かっているんですけど、息子といると私も楽しいというか…
 
【A】
100年ほど前、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトは「精神分析学」を創始しました。そこでフロイトは「我=自分」の重心は「意識」よりむしろ「無意識」にあると主張し、「我=自分=意識」だとする考え方に大きな変化を与えました。現在、「無意識」の重要性を否定する人はいません。
 
人間は太古の昔から無意識の存在を何となく知ってはいましたが、それを理論的に深く探求したのはフロイトが初めてでした。フロイトは私たちの人間観を根本から変えたのです。人間について考えようとするとき避けては通れない道の1つであるとも言われています。
 
そのフロイト理論の一つに「心のくせ」という「コンプレックス理論」があります。よく使われる劣等感とは違い、「心のくせ、偏り」のことです。その心のくせの中に「エディプスコンプレックス」があります。これはギリシャ神話のエディプス王子の悲劇から名付けられたものです。この物語はエディプス王子の父が「この子は父を殺して母と結ばれるであろう」という神託を受け、生まれたばかりのエディプスを山に捨てるのですが、後々、神託の通りになり母は首を吊って死に、エディプスは自分の目を刺し放浪の旅に出るという悲劇です。
 
フロイトはこの神話の中にすべての人が抱いている普遍的願望があると考えました。幼い男の子は父親を亡き者にして母親と結ばれたい、反対に幼い女の子は母親を亡き者にして父親と結ばれたいと無意識の願望を抱いているというものです。こうした無意識の願望は成長するに従って、発達段階の中で他の異性への関心となって健全に解消されていきます。
 
思春期を含む青年期のもっとも大きな課題は「アイデンティティの確立」、即ち、自分は「どのような人間」で「何がしたいのか」という自分への問いと向き合うことです。この課題を一つひとつの体験から乗り越えて行くことで、「自分の生きる意味」「自分の存在価値」を確立して大人に成長するのです。
あなたのお子さんはこの大切な時期にあります。この時期は性ホルモンの分泌が盛んになり、異性への恋愛感情を持ち、初恋や失恋を経験する時期です。たとえ傷ついても、失恋がアイデンティティの確立を求めるきっかけとなり、成熟した大人になる健全な発達過程には大切な体験です。この時期にお子さんを「マザコン」と言われる青年にしてしまわないよう、買い物やお出かけに夫の代わりとして息子さんを手軽に連れ出さないようにしてください。
第204回

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