男と女のQ&A【恋愛編】「SEXのことは譲れない?」

【Q】
優しい人だと思ったんですよねえ。デートは私の行きたいレストラン、遊びに行きたいところ…。
私が「××に行きたい」って言えば、彼の行きたいところが違っても喜んで連れて行ってくれる。それが彼の私に対する優しさだと思ったんです。1年経った今も、そこのところはあまり変わらないので、彼が優しさだと思っているのはそういうことなんだなって思います。でもこの前、ホテルに誘われた時、会社で嫌なことがあったし、体調もいまいちだったから「今日はやめよっ」って言ったんです。そしたら怒ったわけじゃないんだけど「いつも君の言う通りにしてあげてるんだかいいじゃん?!」って言ったんです。「この人そんな風に思ってたんだ?」ってびっくりしました。あまり気乗りがしなくても付き合ってあげることだってあるんですよ。食事のこととか、遊びに行くところとかでそんな風な態度を取ったことないので「SEXのことは譲れないってことなんだなあ」って思いました。男って、どんなに優しい人でも性欲のことは譲れない一線なんでしょうか。性のことって私も大事に思うけど、どちらかの欲求の問題じゃなくて、2人の問題ですよね。
 
【A】
66年前、1956年に公布、翌1957年に施行された法律に「売春防止法」があります。これを読んで字のごとく「売春」となっていて、「性」を売る側、主に女性だけを対象にして補導したり処罰したりする法律です。買う側の男性への処罰は明記されていません。何度も女性国会議員や一般の女性たちから見直しの必要が叫ばれてきましたが、抜本的な法改正はなく、多少の手直ししかされず、66年間も「性」を売る女性たちが処罰されてきました。今年4月やっと超党派の改正案が通り、2024年4月に施行されることになりました。
 
この長く続いた「性行為を行うこと」で対償を受けとることを防止・禁止する法律、売春防止法第一章第一条(目的)では「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする」とうたい、第二条では「「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義しています。
 
要するに、66年間も続いた男女不平等な法律にさえ「対償を受け、又は受ける約束で行う「性行為」は、「人としての尊厳を害するもの」と規定されているのです。法として規制しているのは「不特定の相手」ではありますが、特定の相手だとしても「人としての尊厳を害するもの」というのはまったく同じです。特定の相手との関係とは、本来お金を伴わず、相手を気遣う関係であると考えれば、むしろその方が「尊厳を害する」ということになるとも言えるかもしれません。
 
彼が今までの「優しさ」「いつも君の言う通りにしてあげてる」ことと引き換え(対償)に「性行為」を要求したことで、あなたが「人としての尊厳を害された」と感じ、「SEXのことは譲れないってことなんだなあ」と思ったことは、とても大切なことなのです。はるか昔の狩猟採集時代、干ばつなどに見舞われてどんなに探し回っても食べられる木の実1つ、草の根1つ見つからない、そんな時にたまたま獲物を仕留めた一人の男がいて、その男とのSEXと引き換えに食料を手に入れた女性が、そうしなかった女性より生き延びた時代があったかもしれません。男がSEXと引き換えに何かの資源を提供すると、その性行為は愛のコミュニケーションではなく、限りなく売春に近い「人としての尊厳」を害するものになるのです。生きることの目的が「種の保存」だけでない現代社会における男女の関係として、あるべき姿ではありません。
売春防止法には「対償を受け、又は受ける約束」と「不特定の相手」という2つの条件が挙げられていますが、今後、もしあなたが彼と結婚して夫婦になった時、夫から渡される生活費が、「性行為」や家事育児の対償にならないことを願っています。
第232回

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