男と女のQ&A【子親編】「我が家に残る家督相続の意識」

【Q】
父は認知症で、2年前から施設に入っています。兄は結婚して実家から車で30分ほどのところに住んでいて、私は未婚で母の面倒を見ながら実家で暮らしています。最近父の具合が芳しくなく、もうそれほど長くはないと心配しているのですが、父の具合が悪くなるにつれ、兄が母のこと、実家のことに口を出すようになりました。実家の土地は場所も広さもそれなりなので、そこそこの値段で売れそうで、兄は子どもが3人いることもあってか、相続で少しでも得をしようと考えているようです。兄の気持ちは分かるので、私よりも兄の方に少しは余計に相続してもらった方がいいとは思っているんです。でも、私は実家に住んでいるし、これまで母の面倒を見てきて、それほど収入のある仕事に就けているわけでもないので、今後実家に住み続けるか、それなりの相続をしたいというのが本音です。そんな状況で私が一番困っているのは母の意識です。兄に対しては「兄のいいように」と私も言えると思うのですが、母の中には「家督相続」の意識があるようで、私に「おまえは女なんだから早く結婚して出て行け」と話し、私が出て行った後に兄を実家に呼び戻して家を継がせると考えているんです。まさか兄までそんな風に考えているとは思いたくないんですけど、最近の兄の様子を見ているとどうも母の考えに同調して私を追い出して、財産は1人で相続しようと考えているように思えるんです。
 
【A】
「家督相続」とは、長男がすべての財産を相続する旧民法の制度です。「戸主」が死亡したり隠居したりすると、長男がすべての財産を相続して「戸主」となります。そのため配偶者や次男・長女・次女・兄弟姉妹など、長男でない人は基本的に相続できない制度です。旧民法が効力を発揮していた明治31年から戦後1947年(昭和22年)まで行われていました。戦前は「家制度」が当たり前で、家のトップである「戸主」が全財産を相続していました。しかし「家」中心の生活から「個人」中心の生活に移行し民法も改正され、相続についての制度も大きく変更されました。
 
ましてや、あなたのように「母の面倒を看ながら実家で暮らしている」のであれば当然「家督相続」どころか、新民法のルールでお母様が1/2、兄とあなたで残りの1/2を半分ずつか、むしろ「面倒を看ている」あなたの方が余計にもらってもいいくらいです。ところが「一番困っているのは母の意識」とあなたが言っているように、お母さんの中には「家督相続」の強い思いが存在していて、「おまえは“女なんだから”早く結婚して出て行け」という乱暴きわまりない、男女差別そのままの言葉を言っています。ですからそのお母さんの考えで育てられたお兄さんもお母さんの考えに同調していて、財産を一人で相続しようと思っているかもしれません。
 
毎年、世界経済フォーラム(WEF)が発表している男女格差の現状を各国のデータをもとに評価したジェンダーギャップ指数の2023年版では、日本は146カ国中125位で前年の116位から9ランクダウンしています。2006年の公表開始以来、最低でした。報告書は、男女格差を「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で評価しています。1位は14年連続アイスランド、2位以下はノルウェー、フィンランド、ニュージーランド、スウェーデンと続き最下位はアフガニスタンでした。日本の125位はG7(主要7カ国)の中で最下位、日本は韓国(105位)中国(107位)の下でした。「教育」も識字率や初・中等教育の男女差は0で順位は1位なのに大学以上の進学率では105位に落ちてしまいます。
 
あなたは未婚なので実母の面倒を看ているだけですが、結婚していると実母は勿論、夫の母の介護や夫の介護なども「女の仕事」として当然のように「女」がやるという潜在意識が深く根付いています。まずあなた自身、相続は「少なくとも」お兄さんとは「平等」にもらっていいという認識をお持ちください。
 
まだ、具体的に相続が問題になっているわけではないので、先走っていろいろ想像するのではなく、まずお兄さんとお父様とお母様の今後のこと、健康のことや介護のことなど話してみましょう。話をしていく中で、相続のことも少しずつ方向性が見えてくると思いますよ。
第260回

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