男と女のQ&A【職場編】「セクハラを訴えたのはお金のため?」

 
【Q】うちの会社は男性25人で、女性5人の中小企業です。仕事は男性中心に回っていて、強制じゃないですけど、歓送迎会、忘年会、新年会も出ないわけにはいかない雰囲気があります。飲み会はいつも、男性の下ネタで女性がいじられます。今年の新年会の帰りに調子に乗った課長がお気に入り?の女子社員のお尻や胸を触わってホテルに誘ったんです。周りにいた男性も「おまえ課長のこと好きなんだろ?!」とか「ホテル行っちゃえよ」とか言ったんです。結局、彼女はすごい形相で課長をにらみ、逃げるように帰ってしまいました。私も経験があるんですけど、酔っ払いなんだから大げさにしないで何となく笑ってごまかすとか、できますよね。次の日にでも「誘ってもらってちょっと嬉しかったけど、課長とはないかな」くらいに言えば終わりです。なのに、彼女は課長をセクハラで訴えたんです。みんな見ていたんで結局課長が50万円払って和解しました。彼女は、有給休暇を全部使って退社しました。残った私達は気分が悪いですよね。私達も同じようなことあったし、その度に何とか切り抜けてうまくやってるのにそういう女性社員がいると気まずくなっちゃって、会社全体がギクシャクします。課長も気の毒に何か処分があったみたいです。「彼女は絶対お金目当て。ちょうどやめたかったからセクハラを利用したんだ」と女性社員同士で話しています。これから、社内でどう振る舞えばいいんでしょう。
 
【A】セクハラをしてはいけないという理解は広がりつつあるものの、性に関する言動の受け止め方には個人差があるので、あなたのように訴えた女性を「彼女は絶対お金目当て」という人もまだいるんですね。そして「有給休暇を全部使って退社した」彼女に対して「残った私達は気分が悪い」「私達も同じようなことがあった。その度に何とか切り抜けてうまくやってる」と言い、その上加害者である課長を「気の毒に何か何か処分があったみたい」とかばっています。
 
せっかくこうやって相談してきてくれているあなたに厳しいアドバイスをすることをお許しください。
 
女性社員同士で「ちょうどやめたかったからセクハラを利用したんだ」とまで言っていると聞くと、女性の働く現場ではまだこんなひどいセクハラが行われている上、女性同士がそのセクハラに耐えて「うまく」やっていかなければならないのかと暗澹たる思いです。
 
「社内でどう振る舞えばいいんでしょう」と言うあなたにお願いです。今回、課長をセクハラで訴えた女性は「当然するべきことをした」という認識を持ってください。残った4人の女性社員で、まず「セクハラ」の研修をして、上司(会社)に対し、男性社員に「セクハラ行為は働く人の尊厳を不当に傷つける社会的に許されない行為であり、働く人が能力を十分発揮することの妨げになること、それは会社にとっても職場秩序の乱れや業務への支障につながり、社会的評価に悪影響を与える」という教育をしてほしい旨、申し入れてください。
 
厚生労働省は、事業主(社長等)に向け「セクシュアルハラスメント対策は、あなたの義務ですよ!!」「我が社に限ってセクシュアルハラスメントなんか…と思っていませんか?」等の文書を出し、大企業では2021年、中小企業でも2022年4月1日、パワハラ防止対策が事業主に義務づけられ、施行、適用開始され、適切な防止策を行わないと法令違反となり、事業主は厚生労働大臣から助言、指導、勧告を受けたり、社名を公表される場合があることだけでなく、民事上の責任として被害者から損害賠償請求を受けることもあります。
 
とはいえ、あなたたちのように「セクハラ」の被害を「うまくやって切り抜けている」と考えている人たちに「そういうことがあったら勇気を出して訴えてください」と急にいうのは無理でしょうから、まずは女性社員、次に男性社員、上司と研修をするよう会社に働きかけ、意識改革に努めてください。
 
※この原稿を書き上げ、最後の編集をしようとしている時に、日本の石油元売り最大手、世界でも第6位の規模を持つエネオスHDの斉藤猛社長が、副社長、常務の経営3者が出席した懇親会の場で「酒に酔って女性に抱きつく不適切行為があった」として解任されたというニュースが流れました。エネオスHDは、昨年、「高級クラブのホステス女性への不適切な行為があった」ということで杉森会長(当時)が辞任したばかりで、2年連続経営トップがセクハラ行為により代わるという事態になっています。「セクハラ」という概念がまだまだ社会に認められていない象徴的な事件ですね。とても残念です。
第271回

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